隣合わせに 祝儀と葬式 104

出典: Book


隣合わせに 祝儀と葬式の 家ありて 電報配達の われは戸惑う

赤川速水という人の歌。悲喜交々の人の世には、こんな事もあるなあ、と四、五年前ノートの端に記しました。その後忘れてましたが、先月生寺(じっか)の母の葬儀の日は、この歌どおりの光景でした。

私の里の路地一つ距てたお隣さんの娘さんが、母の葬儀の日にお嫁入りです。母のお通夜に、花嫁のお父さんが焼香しまして、”明日結婚式のため、お寺のおばあさんの葬式の手伝いも見送りもなりません”と挨拶いたします。すると居合わせたご近所の人が”あんた花嫁の父、明日泣くんじゃろな”と、まことに親しみをこめて声をかけたした。そこはお通夜の席のこととて、それ以上話題にならずはずみませんでしたが、花嫁のお父さん、おそらく泣くのでしょうね。

結婚式は華やぎます。装い華やかに、そしてこれはその行手になみなみならぬ苦労があるにちがいないと、親自らの経験から充分予感できるから、胸一ぱいの不安を含んで、むしろこれを華やかにするのかも知れません。軌道を走る列車すら、行く手に大惨事が興ります。中国旅行の高校生のあのニュースが物語ります。まして軌道一つもない生涯。行手は当然悲しみ不安一ぱいの門出、親の涙も無理からぬこと。

母の葬儀はしめやかながら安らかに、そして仏法味豊かに行われました。念仏の命の行く手に不安おびえはありません。涅槃・成仏の母を、見守り送りました。阿弥陀さま、ご開山さま有難うございました。


藤岡 道夫