皺ふかき この手を夫に 20
出典: Book
皺ふかき この手を夫(つま)に さし出すは
わが逝くときか 夫(つま)ゆくときか
これは老夫婦の歌です。ツマと詠みますのは、夫という字をそう読みます。 何事につけても節度を守る時代の生い立ち。取り分け女性の立居振舞いは、控目であることを美徳と躾られ、身にしみ入ったたしなみとなっています。
夫婦が手を取り合うなど全く考えられもしないこと、日常あり得ることではありません。
それでも苦労の多かった生涯を気持ちの上では、文字通り手を取り合うて艱難を凌いで参りました。頑張ってやってきました。それがふと手を見て思う。もうツヤを失うて久しいこと。皺ぶかい手を見て思います。歳を取ったもの。主人も歳を取りました。出来ることなら、この手この体がかなう間に、私が主人を看取り介抱をしてお浄土へ見送って、その後から私は参らせてもらう。そんな思案も胸の中をめぐります。
さてどちらが先かはともかく、今生の別れを告げ合うその折りは、きっと二人で手を差しのべ取り合いましょう。私はそうします。上手に愛情を現す主人ではありませんでした。あるいは手を延べて握りしめてくれるのは、主人の方かも知れません。なんだかそんなような気もします。
皺ふかき この手を夫に さし出すは
わが逝くときか 夫ゆくときか
生涯二人して頑張って来ましたね。力合わせてようやって来たと思います。もう頑張らなくともいいのですね。お浄土に参らせて戴きますもの。如来さまが存分周到(じゅうにぶん)に私共二人の事ご承知でお浄土ご用意下さいました。ナマンダブ、有難うございました。ナマンダブ、有難うございました。
藤岡 道夫
