戸籍簿と 異なるわれの 90
出典: Book
戸籍簿と 異なるわれの 誕生日を
糺すことなし 母泣きしより
前田はるえという人の歌です。戸籍謄本を手にした少女の日、そこに記載されている生年月日が、承知しているものとちがっている。それを尋ねると、母さんは泣いた。押して聞くには、はばかられる気配となって以来、ためらわれるままに年月は過ぎ、母さんは死んだ。
あれは一体何だったんでしょう。私の誕生日にまつわって、泣くほどにつらいものを、胸の奥に秘して抱いていたのでしょうか。娘には顕わに語りたくはないもの、胸に納(しま)いこんだまま、母さんは逝った。もはやうかがいようもないこと、とこんな歌であります。
さて私は今、人に奨められて、卵の黄味を煎りつけて作る卵油を、毎日飲んでいます。古くから伝わる滋養剤です。これは大変苦くて、その上猛烈に臭いものです。そのままでは到底口にできるものじゃありません。一寸こぼれでもすると、たまったものではありません。そこで、これをカプセルに仕込んで、なんなく一気に飲み下します。
深川倫雄和上に、カプセルのお話があります。 ”人は誰でも夫婦・親子の間でさえ、寄せつけも立入りもさせぬものを、心のカプセルに仕込んで抱えている。中には、自分で思い出すことさえ厭な酸っぱく苦いものをつめ込んで、誰も私の事、解りはしないと心を閉じて生きている。このカプセルの中に、分け入り満ちるが如来(おや)さまです”
大経に独仏知耳(ひとりぶつのしろしめすのみ)の仰せがあります。そうです。弥陀ご一仏、カプセルの中に分け入り立ち入って、孤独の思いに満ちまする。ナンマンダ仏とごいっしょしていて下さいます。
藤岡 道夫
