三十一 見聞知 「深川 倫雄」
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麗しや おぼつかなしや 行道も
涙にかすむ その稚児すがた
かく歩め かくや歩まん 稚児めぐる
合掌の母 なぜ涙する
(深川 倫雄)
養育
光陽あたたかになり、寺々で開山聖人の大遠忌がつとまります。五十年に一度のいい御縁です。半年も前から、吾が子を稚児に出そうと待ったでしょう。晴れ着の上に母は手間どって、稚児衣装をつけました。顔も粧(よそお)い、ひたいに黒い点を二つ。 アノネ、きょろきょろせぬのヨ。前の人にくっかないのヨ。蓮の花はコウ持って、静かに歩むのヨ。
子は内陣に上る。母は下陣に座る。色衣の諸僧、入堂着座。今や御影向の前に、次第は進む。大遠忌たけなわ。母の心は、右往左往します。天冠(てんがん)を落とさねばよいが。どじをふまぬように。行道、おねりが始まる。麗しき祖徳讃嘆である。歩む、歩む小さな白足袋の運びの乱れ勝ち。子よ、子よ、上手、上手、その調子、その調子、なんまんだぶ、なまんだぶ、母の目から盛りきれずあふれておちる涙。子を拝み、子をほめる涙である。
見 聞 知
仏心なき私。拝まぬ私に礼拝させ、称えぬ私に称えさせ、憶わせる育ての親は誰か。阿弥陀仏。
衆生仏を礼すれば 仏見たまい
称名すれば 聞きたまい
憶えば 知りたもう。
十方の念仏の衆生を みそなわし
摂取して捨てぬ仏 阿弥陀仏
と 名づけたてまつる。
(昭和三十八年四月)