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三十一 見聞知 「深川 倫雄」

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法悦百景 深川倫雄和上

二十一 いのちの葉 「浅原 才市」
二十二 恋ごころ 「良寛上人」
二十三 世は夢 命は露 「良寛上人」
二十四 無邪気 「良寛上人」
二十五 大風のごとし 「物種 吉兵衛」
二十六 他力 「物種 吉兵衛」
二十七 許す母 「与謝野 礼巌」
二十八 修正会 「九条 武子」
二十九 親さま 「足利 源左」
三十 常不軽菩薩 「宮澤 賢治」
三十一 見聞知 「深川 倫雄」
三十二 仕えてぞ「行基 菩薩」
三十三 ひとの涙 「九条 武子」
三十四 くるしみの壺 「九条 武子」
三十五 この善太郎 「善太郎」
三十六 提婆尊者 「梁塵秘抄」
三十七 職業すなわち仏道 「兼好 法師」
三十八 寂しさの秋 「三木 清」
三十九 寂しき悔 「九条 武子」
四十 報恩講 「狐雲」
ウィキポータル 法悦百景

麗しや おぼつかなしや 行道も
涙にかすむ その稚児すがた

かく歩め かくや歩まん 稚児めぐる
合掌の母 なぜ涙する
        (深川 倫雄)


養育

 光陽あたたかになり、寺々で開山聖人の大遠忌がつとまります。五十年に一度のいい御縁です。半年も前から、吾が子を稚児に出そうと待ったでしょう。晴れ着の上に母は手間どって、稚児衣装をつけました。顔も粧(よそお)い、ひたいに黒い点を二つ。  アノネ、きょろきょろせぬのヨ。前の人にくっかないのヨ。蓮の花はコウ持って、静かに歩むのヨ。

 子は内陣に上る。母は下陣に座る。色衣の諸僧、入堂着座。今や御影向の前に、次第は進む。大遠忌たけなわ。母の心は、右往左往します。天冠(てんがん)を落とさねばよいが。どじをふまぬように。行道、おねりが始まる。麗しき祖徳讃嘆である。歩む、歩む小さな白足袋の運びの乱れ勝ち。子よ、子よ、上手、上手、その調子、その調子、なんまんだぶ、なまんだぶ、母の目から盛りきれずあふれておちる涙。子を拝み、子をほめる涙である。

見 聞 知

 仏心なき私。拝まぬ私に礼拝させ、称えぬ私に称えさせ、憶わせる育ての親は誰か。阿弥陀仏。

   衆生仏を礼すれば 仏見たまい
   称名すれば 聞きたまい
   憶えば 知りたもう。
   十方の念仏の衆生を みそなわし
   摂取して捨てぬ仏 阿弥陀仏
   と 名づけたてまつる。

(昭和三十八年四月)