もし死ねば あなたは泣くかと 31

出典: Book

もし死ねば あなたは泣くかと 妻言ひぬ
亡き母も言へり 父は泣きたり

もし私が死んだら、あなたは泣くかと妻は問う。問われて思い出すことがある。母がふと父に問うた。”私がもし先に死んだら、あなたは泣きますか”と。今わが妻も、まるで同じように、もし私が死んだら泣くかと言う。女は男につれ添う妻の座にあって、みな一様にこんなふうに思うものでしょうか。

どうも男が泣きそうに見えぬのかも知れません。日本の亭主たちは、総じて女房に対して無愛想というか、そっけない。

その日常のそぶりから察するに、私が先に死んだとしても、果して泣いてくれるかどうか。どうも泣いてくれそうにないようにも思えてくる。そう思えるまま、ついふと聞いてみるのは、妻という女の心持ちなのか。

思い出す光景がある。母は父より先に往った。その時父は泣いた。声をしぼって泣き、涙を押しぬぐう肩がゆれる。慟哭の心があらわれる父の姿。蘇ってくる光景を思い浮かべ乍、俺も亦、泣くに違いないと思う。然しそりゃあ泣くさとは男は言わぬ。だから母の死に目に、激しく泣いた父親の様子を、妻に語り聞かせ察するにまかせる。こんな意味の朝日新聞歌壇の歌です。

さてこの歌は”もし死ねば”と歌い起こされている。だがしかし、人の命、生まれて死ぬに”もし”はない。お経に、

”必ずまさに死すべし 自らこれに当面し 代理するものなく 連れ添う者もなく 全く単独・個別の死が厳としてある”

と、説かれています。

この命を見込んで、阿弥陀さまが来てくださる。ナンマンダ仏とご一緒して下さる。憂い悲しみの命を取込んで、お慈悲の親が同居して下さいます。


藤岡 道夫