たわやすく 線を引き去る 72
出典: Book
たわやすく 線を引き去る 名にあらず
一周忌過ぎし 君がアドレス
例年になく暖かい年の瀬。それでも恒の如く、この期に果たさねばならぬいくつかの事どもがある。推(うずたか)い年賀状の束を前に、筆を手にするのも、そうしたことの一つであります。さて、宛名を追うて住所録を順次繰っては記(したた)める。
彼の名がある。生涯に亘って、わが交友の中に鮮やか。つややか、くっきりと、彼の命はまだわが裡に在る。
すでに、一周忌が済んだ。だからもう、この宛名の年賀状は、書かぬ。いつもならここで線を引いて、名を消すところ。それがしかし、この彼の名は消せぬ。消すに忍びない。この名は残しておこう。このアドレスにも、いやこの胸の底ひに、とどめておこう。
たわやすく 線を引き去る 名にあらず
一周忌過ぎし 君がアドレス
昨年暮の廿五日、山口聖典研究会、恒例の報恩講に於いて、深川倫雄和上が、朝日新聞歌壇の、この歌を引用されました。畏友・広兼至道君を偲びながら、仏恩師徳をご讃嘆、まことに感銘深いご縁でありました。
あれから更に一年。広兼師の浄光寺には、この秋、三回忌の法要が営まれ、望まれて一席の法話を勤めました。今やここに歳暮れます。
今年もわがアドレスに、彼の名は残る。胸の底からたっぷり、彼の命が顕ち上る一年でした。広兼さんをめぐる、阿弥陀さまを、ご讃嘆申す一年でした。
ナマンダブ 如来さまがご一緒です。ナマンダブ 親鸞さまもご一緒です。ナマンダブ 還相の至道菩薩もご一緒の、この一年を終わります。
藤岡 道夫
